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No.5,Mar.,2000

多摩細胞診研究会会報

編集責任者/薄田 正(国家公務員共済組合連合会立川病院) 発行責任者/小松 彦太郎(国立療養所栗生楽泉園園長)


多摩細胞診研究会の発展を祈念して

国立療養所栗生楽泉園
 小松 彦太郎

 今年も恒例の研究会が、東京病院の主催で行われます。多摩細胞診研究会の12回目の例会にあたります。平成6年(1994)の昭和病院(大会実施委員長 森)を皮切りに、2回多摩がん検診センター(藤井)、3回東京病院(田島)、4回立川病院(薄田)、5回杏林大学保健学部(椎名)、6回複十字病院(藤山)、7回杏林大学三鷹校舎(海野)、8回東京病院(田島)、9回昭和病院(森)、10回立川病院(薄田)、11回防衛医大(廣井)と年に2回程度開催されてきました。特別講演も多岐に亘っています。中でも大村先生の生命の話は異色でみんなを驚かせました。また、この間に研究会の会報が毎年薄田さんを編集責任者として4回発行されています。この研究会が回を重ね、多摩地区およびそれに近接した地域の細胞診に従事している皆さんの親善と発展に寄与してきたと思います。本当に関係者の皆さんの努力に感謝します。

 また、昨年の11月から多摩地区細胞診研究会から多摩細胞診研究会に名称を変更し、会則もできました。これは、この会の発展に努力してきた上野さん、田中さんらが埼玉県の職場にかわったこともありますが、この会がより広い地域の細胞診の仲間を対象にした研究会にしていこうとの考えからです。

 多摩細胞診研究会のあゆみに関しては、多摩地区細胞診研究会会報1号に詳しく記載してあります。前身は東京病院の細胞診の勉強会で、昭和578月(1982)に上野(PCL)、田中(所沢医療センター)、森(昭和病院)の諸兄らと最初に勉強会を開いたのが始まりです。その後、平成3年(1991)から大村先生、森さんらが主催していた昭和病院の勉強会と年に2回ほど合同で勉強会を行ってきました。さらに平成5年(1993)に、藤井先生、椎名さんらを発起人に加え多摩地区細胞診研究会に衣替えし、平成6年にこの会の第1回研究会が開かれました。勉強会にはいつも40人前後の方が参加し、今回で12回目になります。この間に関係した仲間は数しれないと思います。また、この会の勉強を通じて細胞検査士になられた方も多くいます。

 臨床細胞診学会では、CTと指導医の関係について色々検討されています。真の意味で細胞診を発展させるには、両者の協力が不可欠です。指導医の中にも、病理医と臨床医では若干の考えの違いがあります。しかし、臨床に密着した学問として、臨床細胞診断学を発展させていく点で一致できると思います。検診業務の見直しが行われ、細胞診の意義についても再検討されています。より迅速に、正確で的確な情報の提供ができなければ細胞診は衰退してしまいます。常により良いものを目指した細胞診の目を養い、技術を研磨していく必要があります。このためには我々の様な勉強会は不可欠です。CTの制度が出来てから30年、我々の勉強会も20年になります。これからも、今までこの会を育ててきてくれた諸兄を中心にさらに新しい仲間を加え、マンネリ化に陥ることなく、常に新しい要素を取り入れ、より魅力のある研究会に発展させて欲しいと思います。これからの皆さんのますますの発展と健康を祈念し挨拶にかえます。

多摩地区細胞診研究会プログラム内容

10   会  場:国家公務員共済組合連合会

            立川病院 会議室

    (担当 国家公務員共済組合連合会立川病院)

              日:平成1143

              教育講演:子宮頸部異形成において

           癌化を予知する細胞の形態

                               杏林大学保健学部細胞診断学教室

              郡 秀一

症例検討

症例1     HPV感染症を伴った上皮内癌の1

                                                              多摩がん検診センター細胞診

                                                                                     福留 伸幸

症例は、56歳(閉経6年)で、不正出血、12年前より腰部の鈍痛。他医院でスメア異常を指摘され、当センター紹介となり、細胞診施行。受診時のコルポ診でクラスIV(易出血性で浸潤癌を想定)で、同時にパンチ生検も施行。

【細胞所見】背景は炎症性および一部血性である。核の大小不同やクロマチンの増量した核異常細胞を多く認めた。核所見は核形不整、濃縮核、無構造核を示すスマッジ核が見られ、細胞質がエオジン・オレンジ好性に染まる錯角化細胞や一部にコイロサイト・多核細胞などがあり、HPV感染細胞を示唆する所見であった。傍基底型でN/C比が60%〜80%で高度異形成と思われる細胞も見られた。一方では、Small fiber typeの細胞で微少浸潤癌も否定出来ない細胞も散見されたが、最終的に高度異形成+HPV感染細胞と判定した。

【解答】当センターでの生検組織診断では高度異形成。紹介先の病院で円錐切除術を施行、最終病理組織診断は、上皮内癌であった。

症例2           HPV感染を伴う高度異形成

                                                       杏林大学保健学部細胞診断学教室

                                                                                     郡 秀一

【症例】症例は43歳、女性で、検査材料は子宮頸部綿棒擦過である。臨床情報としては、ClassIIIaにて経過観察中であった.

【細胞所見および診断】細胞標本中には、表層から旁基底型細胞に相当する扁平上皮系細胞に核種大、クロマチン増量、核形不整を認めた。これらの核異常細胞は旁基底型に多く認められたため、高度異形成の存在を考えた。また、典型的なkoilocyteを認め、ヒト乳頭腫ウイルス(Human papilloma virus, HPV)感染の存在も考えられた。さらに、ごく少数ではあるが、淡染均質無構造核を伴う極めてN/C比の高い上皮内癌様の細胞を散在性に認めたため、上皮内癌の存在も疑われた。しかし、koilocyteの存在や上皮内癌様の細胞が極めて少数であったため、その存在は否定された。

【組織診断】組織診断は高度異形成であった。高度異形成に隣接してHPV感染を伴う軽度異形成を認めた。In situ hybridization法にて、HPV 16/18型を検出した。

【その後の経過】症例はその後も定期的に追跡検査され、6ヶ月後に細胞診および組織診にて上皮内癌を認め、円錐切除を施行された。淡染均質無構造核を伴う極めてN/C比の高い上皮内癌様の細胞に注目して、癌化を予測すべき症例と考えた。

【解答】細胞診断:HPV感染を伴う高度異形成

    組織診断:高度異形成、HPV感染を伴う軽度異形成

    経  過:6ヶ月後に上皮内癌へ進行

症例3      子宮頸部粘液性腺癌(内頚部型)

                                                                           公立昭和病院 病理科

                                                                                     田辺 美絵

【症例】41歳、女性。

【検体】子宮頸部(エンドサーチ)

【主訴】月経過多

【現病歴】月経過多にて近医受診、軽度貧血(Hb10.4)あり、子宮筋腫疑いにて当院婦人科受診。

【細胞所見】炎症性背景に重積性のある大小のクラスターを多数認める。クラスターはHoneycomb羽毛状様であり、配列に乱れを持つ。個々の細胞はN/C比が高く、黄色調の粘液を持ち核間距離は不均等である。クロマチンは非常に微細で、核異型は乏しいが頸部腺癌が疑われる。

【組織所見】子宮頸部間質深部にまで浸潤する高分化内頚部型粘液性腺癌で、頸管腺開口部付近での核異型は異常に弱い。深部浸潤部では大小の腺管を形成し、核異型が増し、充実性に増殖している所も見られる。

【まとめ】今回の症例は核異型が弱く、悪性と診断することが困難であったが、核密度が高く強い重積性を示すクラスターや、配列の乱れ、核分裂像も見いだされた。このように個々の細胞異型が乏しい場合でも、クラスターの構築に異常が見られた時は頸部腺癌も念頭に置き検索を進める必要があると思われた。

【解答】内頚部型粘液性腺癌

症例4          Verrucous carcinomaの一例

                                                           東邦大学大森病院 病院病理部

                                                                                     石井 真由美

【症例】48歳、女性、妊20。平成711月、不正出血にて受診(検体@)、その後来院せず、平成111月に再診(検体A)。検体は腟部の綿棒擦過標本。

【細胞所見】検体@:多数の細菌が見られる強い炎症性背景に出血も認められた。錯角化が目立つ中に表層ないし中層型異型細胞に加え、小型核小体を有し、クロマチンが淡染する化生及び再生様細胞が見られた。ClassIIIa、軽度異型上皮を疑いVerrucous Ca.も否定出来なかった。

検体A:角化異型細胞の増加に加え、細顆粒状クロマチンを呈する旁基底型異型細胞が出現。数は少なかったが、扁平上皮癌を疑った。

【病理・組織所見】子宮頚部に3×2×0.5cmの疣状の白色調隆起病変。腫瘍細胞は層状分化を示し、基底側に核分裂が目立つ。棘層にコイロサイトーシスを有する部分がわずかにあったが、HPV染色は陰性。

【解答】Squamous cell carcinoma, Verrucous carcinoma, Ia

11回多摩細胞診研究会プログラム

日  時:平成111030日(土曜日)

      14001730

場  所:防衛医科大学校 臨床大講堂

     (担当 防衛医科大学校病理学第一講座)

教育講演:筑波大学病院における

       乳腺穿刺吸引細胞診の現状

     筑波大学附属病院病理

       深沢 政勝

症例検討

症例1                   尿膜管癌の1

                                                                   順天堂大学浦安病院検査科

                                                                                     古谷津 純一

【症例】50歳、女性。

【経過】無症候性の肉眼的血尿を主訴に近医泌尿器科を受診。同医にて膀胱鏡を施行し、膀胱内に腫瘍が認められたため、当院に紹介され入院となる。骨盤部MRIにて、膀胱頂部の前壁寄りの筋層内から内腔および外方に進展する34cm大の不整形の腫瘍を認めた。

【細胞所見】壊死性背景に多数の腫瘍細胞が、集塊状あるいは散在性に出現していた。これら腫瘍細胞は棚状に配列し高円柱状で、核は楕円形を示し、偏在傾向があった。粘液性分はほとんどみられない。(自然尿)

【組織所見】核Chromatinに富んだ腫瘍細胞が、大小の腺管を形成しながら増殖・浸潤している。一部で低分化の腺癌が見られるが、わずかに粘液を産生する部分があった。

【解答】尿膜管癌(粘液産生のほとんどない例)

症例2  細胞異型に乏しい乳腺アポクリン癌の1

                                           日本医科大学附属多摩永山病院 病理部

                                               片山 博徳、前田 昭太郎、細根 勝

【症例】62歳、女性。

【材料】乳腺穿刺吸引標本

【臨床経過】1988年、乳腺腫瘤を自覚し他院で乳腺炎を指摘されたがそのまま放置。19904月に当院の乳腺外来を受診。左C領域に4×3cmの腫瘤を認め、乳腺炎を疑い穿刺吸引細胞診を行い要経過観察とし、同年12月、再度穿刺吸引細胞診が行われクラスIIIa、要再検と報告するもその後、患者は来院せず。13カ月後に来院し穿刺吸引細胞診を行い要生検と報告した。

【細胞所見】初診時の細胞像:嚢胞液が吸引され、ホウ沫細胞を背景に、アポクリン化生細胞・導管上皮細胞をみとめ、アポクリン化生細胞は結合性の強い平面的集塊で核は円形・大小不同の乏しく、核縁は滑らかであった。同年12月の細胞像:アポクリン細胞の結合性は強いものの、核の重積性・大小不同が見られ、核小体も目立ち、多くの細胞が採取された。19923月の細胞像:アポクリン化生は認められるものの、結合性が低下し、ほつれをみとめ、大小の細胞集塊が多数認められ、アポクリン癌を推定したが、極性の乱れ、核の重積性・大小不同は比較的軽度であった。

【組織所見】アポクリン癌の他に充実腺管癌が認められた。なを、充実腺管癌が認められたが、細胞診でこの部分に相当する癌細胞は見られず、同部位からの細胞は穿刺吸引がなされなかったと考えた。

【まとめ】細胞異型に乏しく、アポクリン化生細胞と鑑別が困難な症例に対して誤陰性を防ぐためのポイントとして1)アポクリン化生様変化を伴う細胞が豊富にかつ優位に出現する。2)クラスターの結合性は弱くほつれが目立ち、細胞間の境界は不明瞭。3)背景にしばしば分泌物様無構造物が非常に多く出現する。などが鑑別点となると思われる。

【解答】乳腺アポクリン癌

症例3               硬口蓋原発筋上皮腫の1

                                               東京大学医学部附属病院 病院病理部

                                                                                     瀬田 章

【症例】37歳、男性

【材料】硬口蓋腫瘤の穿刺吸引標本

【臨床経過】口腔内に違和感を主訴に当院耳鼻咽喉科を紹介受診。同日、細胞診を施行。ClassIII Round cell tumorと判定、報告。後日、腫瘍生検を施行。

【細胞所見】粘液様背景に孤立散在性に単一異型細胞の出現。胞体はライトグリーン好染性、核は偏在性、円形、クロマチンは細顆粒状均等分布等を認めた。(形質細胞様細胞)

【組織所見】重層扁平上皮に被覆された腫瘍の内容は異型細胞を充実性に認めた。細胞境界明瞭、細胞質は広く好酸性、核は偏在性、N/C比(小)がみられた。

【まとめ】細胞診ではClassIII、推定組織型までには至らなかったが小唾液腺の筋上皮細胞の形態変化(形質細胞様型)を理解する事で口腔領域の穿刺吸引細胞診は重要と考えた。

【解答】Myoepithelioma of the palate, biopsy.

症例4                 肺原発の絨毛癌の1

                                                (財)癌研究会附属病院 細胞診断部

                                                                                     荒井 祐司

【症例】66歳、男性。

【喫煙歴】20/2066歳(SI=920

【材料】経気管支穿刺吸引標本

【臨床経過】血痰出現し、近医受診。胸部Xpにて異常陰影指摘され、当院呼吸器科を受診。経気管支穿刺吸引を施行。Large cell carcinoma (giant cell Ca.)と診断した。検査から14日後胸部痛出現し、緊急入院となる。

【細胞所見】出血性及び壊死性の背景に@薄い細胞質に異型の強い核を有する細胞、A好酸性の厚い細胞質にクロマチンが融解状や濃縮状の変性した核を有する細胞の2種類の大型腫瘍細胞を認める。@はおもに集塊状で、Aは孤立散在性に出現。
【組織所見】薄い細胞質で核小体の目立つ核異型の強い大型細胞とそれらの辺縁に位置するように、厚く豊富な細胞質を有する単核や多核の異型細胞を認める。

【まとめ】肺癌で大型の異型細胞を認めるときには、まれであるが絨毛癌も鑑別診断に挙げ、上記のような腫瘍細胞かどうか、よく細胞所見を観察することが重要であると思われた。

【解答】絨毛癌(肺原発性)Choriocarcinoma of the right middle lobe of lung, peripheral type.

症例5                非浸潤性乳管癌の1

                                                           戸田中央臨床検査研究所 病理

                                                                                     福田 正彦

【症例】81歳、女性。

【材料】乳腺穿刺吸引標本

【臨床経過】右乳房腫瘤を主訴に当研究所関連病院を受診。画像検査にて乳頭直下に血性内容嚢胞を伴う境界不明瞭な充実性腫瘤(2.5×3.8×5.0cm)を認め穿刺吸引細胞診を施行。

【細胞所見】血性背景の中に比較的小型ながらクロマチン増量の核の緊満感がみられる乳管上皮細胞がシート状、樹枝状、乳頭状の大型集塊として多数出現。

【組織所見】嚢胞状に拡張した乳管内に乳管上皮のPapillo-tubularな増生がみられる。細胞異型は軽度なれど、2相性の消失が目立つ。浸潤性発育はみられない。

【まとめ】今回の症例は乳管上皮の増生を伴う良性病変との鑑別が困難な症例である。@細胞集塊の大きさ、形状の多様性、A不規則重積、B核密度の高い細胞集塊、C緊満感のある均一な核所見、D小型濃染核の筋上皮細胞としての誤認、などに注意してスクリーニングする事が重要と思われた。

【解答】Noninvasive ductal carcinoma (Papillotubular type).

症例6 Pleomorphic xanthoastrocytoma (PXA)1

                                       日本大学医学部附属板橋病院 病院病理部

                                                                                     小松 京子

【症例】50才、女性。

【材料】手術時の脳組織腫瘍部捺印標本。

【臨床経過】右肩〜右腰にかけて振動感様の感覚障害出現し、来院。MRIにて左頭頂葉に限局性のmass lesionを認めた。

【細胞所見】核径200300uの、分葉状の核を有した巨細胞や、紡錘形の核を有した中〜小型の異型細胞を認め、細胞質内に好酸性の顆粒状〜滴状の物質を持った細胞も見られた。

【組織所見】腫瘍細胞密度は中等度で、storiform patternを示すところを認め、多核やbizarreな核の巨細胞も見られた。壊死像は見られず、血管増生も強くなく、鍍銀染色で腫瘍細胞間にレチクリン線維を認めた。又、一部の腫瘍細胞は脂肪染色陽性であった。

【まとめ】PXAは稀な腫瘍であるが、脳組織標本中に異形の強い巨細胞を認めた際に、壊死物質や血管増生の欠如、腫瘍細胞質内のgranular bodyや硝子滴変性の存在、等の所見が得られれば、判定は可能である。予後良好な場合が多く、MFHGlioblastomaとの鑑別は重要であると考えられた。

【解答】Pleomorphic xanthoastrocytoma

【編集後記】

国家公務員共済組合連合会 立川病院 病理科
薄田 正

 今年はミレニアムの年で、21世紀まで残り9ヶ月たらずになりました。会員の皆様、お元気でご活躍のことと思います。今回の会報は、第10回立川病院、第11回防衛医大の2回分を演題発表者と会長の小松先生のご協力で記載することができました。関係者の皆様本当にありがとうございました。また、第11回より多摩細胞診研究会と名称変更すると共に会則もでき、当日出席の会員の皆様より500円徴収させて頂ました。これは、主催者が会を円滑に運営する為に使用致します。

 最後に、この研究会が会員の皆様の協力でますます充実した会となるように願っています。


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